遠隔地の不動産売買の決済は、現地に行かなければならないのか?

post_162.jpg

町田の司法書士佐伯知哉です。
今回は遠隔地の不動産の売買について書きたいと思います。

東京に住みながら大阪の不動産を購入したり、海外に住みながら日本の不動産を購入するような場合を想定しています。
日本国外の不動産売買については、現地の法令に従って手続きしますので、日本の国家資格者である司法書士の専門外分野となります。

このような相談がありました

今回、この内容で書こうと思ったのは、以下のような相談があったからです。

私は海外在住で日本のA県の不動産をローンを組まずにキャッシュで購入する予定です。
一時的に帰国して手続きするのですが、日本で滞在するのはB県になります。
売主の不動産会社は不動産所在地のA県にあり、決済(不動産の引渡しと残代金の支払いをすること)をA県でするように言っていますが、私はB県から遠方にあるA県まで行くのが大変です。
司法書士はB県の私の知り合いの司法書士に依頼しようと思うのですが、司法書士が私の代理人として行くにしても日当や交通費が余分にかかるのが納得出来ません。
決済のためにA県まで行かなければならないのでしょうか?また、必ず当事者又は代理人が決済場所に行く必要があるのでしょうか。

概要としては上記のとおりですが、あと付け加えて、売買の対象不動産は売主が購入時に銀行から借入をしているので、銀行の抵当権が付いています。
果たして、ご相談者の希望どおり、買主と売主が一堂に会することなく決済は出来るのでしょうか。

まず、このご相談は当職に依頼する前提がありませんので、回答しても当職にまったくメリットが無いです(笑)。
なぜ、依頼する予定の司法書士に相談しなかったのかはナゾのままですが、せっかくご連絡をいただいたので細かい理由は割愛しましたが回答はさせていただきました。

私の回答は、「売主の主張するようにA県でご相談者(又は代理人)が出席の上、決済をすべき」としました。

ご相談者としては、お金はネット送金できるし、登記もオンラインで全国どこの物件でも登記申請可能なのに、なぜわざわざ現地に行って、当事者が集まって決済しなければならないのかと不満があるようです。
それぞれ別々の場所にいても決済出来るんじゃないかと、疑問に思ったようです。

確かにオンライン等を駆使してやれば何とかなりそうですし、今の時代に物理的な距離の問題で手続きに余分な手間や費用がかかるのはナンセンスな気がします。
ですが、日本の法律や実務では、決済日に当事者が一堂に会さないと非常に大きなリスクが伴います。

決済日に当事者が集まる理由

決済日において、当事者または代理人が一堂に会します。
これは、まず売買代金の支払いと所有権の名義変更を同時にする必要があるからです。
売主としては、お金をもらわなければ名義を渡したくないですし、買主としても、名義をもらわなければお金を払いたくないわけです。
互いの利益が相反する関係ですので、同時に両方をしなければ双方納得がいかないはずです。
ちなみに、司法書士は決済に立ち会って、売主と買主の双方の権利(お金を得たり、不動産の名義を得ること)と義務(お金の支払い、名義の引渡し)の完全な履行を担保するのが役割です。
売主と買主のそれぞれの権利義務を同時に履行すること同時履行といいます。

同時履行しない場合のリスク

今回の相談のようなケースで買主が遠方に行くのにコストや時間がかかるから、お金の支払いを先行して書類の引渡しを後でも良いとすることも考えられます。
この場合、売主にはリスクはありません。
お金を先にもらえますから取りっぱぐれることはありません。

ですが、買主には大きなリスクが伴います。
日本の法律では、売買契約をして、お金を払えば所有者となります。
正確には、特約が無い場合は売買契約の締結時点で買主は所有者となるのですが、普通の不動産売買契約書にはお金の支払いを持って所有権が移転する特約が付いています。

小難しい話しは別として、上記、まあ当たり前だと思うでしょうが、続きがあります。
この所有者としての権利を確定させるには登記が必要なのです。

仮に、売主が悪い奴で、買主から先行してお金をもらった後に、本来は名義変更に必要な権利証等を買主側に引き渡さなければならないのですが、これをせずにまだ名義が自分のものであることを良いことに別の買主を見つけてもう一度不動産の売買契約をすることを考えるかもしれません。

いわゆる二重売買というものですが、この場合、後で売買契約をした買主が先に自分の名義に登記したとすると、先に売買契約をしていた買主が泣こうが喚こうが、後の買主に不動産を先に買ったのは自分だから、その不動産の正当な所有者は私であると訴えても勝つことは出来ません。

もちろん二重売買をした売主が悪いので、この悪い売主には損害賠償請求をすることが出来ますが、こんなこと(犯罪)をする売主です。
すぐにどこかへ消えてしまうでしょう。
もし見つけたとしても、訴訟費用や手間も掛かるし、お金を使い果たしてすっからかんになっていれば回収することは出来ません。
刑事事件で詐欺罪として刑務所に送ることが出来ても、こちらに良い事何て一つもありません。

ですので、不動産売買の決済は不動産の名義変更とお金の支払いを同時に行う必要があるのです。
実際は、銀行等で決済を行うので法務局に登記申請に行く時間というタイムラグは生じますが、司法書士は決済が終わったら速やかに登記を申請して買主の権利を確定させるように全力を尽くします。

このように、万が一ということですが、お金だけ払って不動産を取得できないというリスクが伴うので、交通費等をケチってこのリスクに目を瞑るのは賢い選択だとは思えません。

決済場所が売主側の主張するA県である理由

また、今回の相談事例では、売買の対象不動産に抵当権が付いているので、売主から買主への所有権の名義変更の前提として、この抵当権の抹消登記もしなければなりません。

買主の支払ったお金で、売主は担保の残債務を繰り上げ返済しますので、銀行が発行する抵当権抹消に必要な書類は決済後に受け取れることになります。

最近の銀行は、例え近場であっても抵当権抹消書類を決済場所まで持って来てくれることはまずありませんし、遠方の県まで銀行員がわざわざ書類だけを持って来ることはありえません。

よって、今回の相談のケースでは、売主の主張する不動産所在地のあるA県において当事者全員が一堂に会して決済をしなければならないということになります。

それでも何とかしようと考えた結果

上記回答をした後、それでも何とかならないか方法を考えたのですが、考えられる方法が二つありました。
ですが、結論としてやるのは難しいと思います。
また、専門的な内容ですので、何を書いているかよく分からないと思いますのでここは読んでいただかなくて大丈夫です。

一つ目の方法は、売主側で司法書士を指名して、売主側の司法書士が買主の本人確認・意思確認や委任状のやり取りを行います。
司法書士が委任者に対する本人確認・意思確認は直接面談が原則です。
ですが、法律で、必ず直接面談しなければならないと決められているわけではありません。
何らかの方法で、買主が本人であること、登記申請の意思があることを確認出来れば良いのです。
ですので、この方法であれば買主は遠隔地へ出張せずに決済出来ます。
ただ、この方法は売主側の司法書士の判断において本人確認と意思確認をしますので、直接面談しないと確認出来ないと判断した場合は使用出来ません。
万が一、本人確認や意思確認に不備があった場合に全責任を負うのは司法書士です。
一度も依頼者に会わずに委任契約を結ぶのは好ましい方法ではありませんので、この方法を良しとする司法書士は少ないでしょう。

二つ目の方法は、売主と買主でそれぞれ別の司法書士を代理人とします。
関東地区ではまずやりませんが、関西地区ではよくある京都方式です。
買主側の司法書士で買主の意思確認をして委任状をもらい、売主側の司法書士へ事前に送ります。
この委任状はいわゆる登記原因証明情報を援用する形のものではなく、申請書の副本形式の登記の目的等がきっちり記載されているものである必要があります(理由は割愛)。
さらに、買主側の司法書士の復代理人として売主側の司法書士へ復代理の委任状も送ります。

決済日に買主はB県に居ながらA県の売主の口座へ売買代金を送金し、着金が確認出来たら、売主側の司法書士が抵当権抹消書類を受領して抵当権抹消登記と所有権移転登記を申請します。
これで理論上はなんとかなると思います。

ですが、売主側が選任した司法書士が所有権移転登記まで申請するため、売主側の司法書士に別途追加報酬が発生します(一般的には所有権移転登記費用は買主負担)。
その追加分は買主都合ですから、買主側で負担することになるわけですが、買主は自分で指名した司法書士の報酬に追加して売主が指名した司法書士に所有権移転登記分の報酬を支払うということで、結局余分な費用が掛かって、出張費用を払わないためにやったのに登記費用が余分に掛かるという本末転倒な結果になってしまいます。
ただ、「出張費用>余分な登記費用」の関係であればアリかも知れませんが、いずれにせよ普通の決済よりは費用は余分に掛かります。

最後に

実際は不動産という大きな買い物をする場合に現物を一度も見ないで買うことはあまり無いかと思います。
ですので、最低でも一回は現地に行くでしょうから、事前に打ち合わせをして売買契約や決済を現地に行く時にまとめてやってしまえばいいでしょう。
一括決済と行って、不動産をローンを組まずにキャッシュで購入する際に使用される方法です。
今回の相談のケースは売買契約はすでに済ませているようで、残すは決済のみという状況でしたので、一括決済が出来ずしょうがなかったのですが・・・。

まとめ

  • 決済は売主と買主、又は代理人が一堂に会する必要がある
  • 所有権を確定させるのは登記が必要
  • 登記は早い者勝ち、先に登記した方が確定した所有者となる
  • 売主側が指名した司法書士が買主の本人確認・意思確認を直接面談せずに出来るのであれば何とかなるが、司法書士の感覚として依頼者に一度も会わずに委任契約を結ぶのは好ましい方法ではない
  • 京都方式の決済方法を用いれば理論的には何とかなるが、費用のことを考えれると結局意味がなさそう
  • 不動産を購入するのに現物を見に現地に行く機会があれば、その際に一括決済すれば余分な交通費が掛からない